企業概要
理想科学工業は、印刷機器を専門とする電機メーカー。1946年にガリ版印刷会社として創業。1977年に家庭用簡易印刷機『プリントゴッコ』を発売、1980年には孔版印刷機『リソグラフ』の開発に成功。現在では高速印刷技術において卓越した存在であり、旗艦製品の『オルフィス』は世界最速の毎分165枚の印刷が可能。キヤノン・セイコーエプソン・ブラザー工業など競合が多い事務用機器業界において「低コスト・高速印刷」で差別化、独特の地位を築いている。
・高速印刷技術に強いプリンタ専業メーカー、表参道に優良不動産も保有
・売上高は微減傾向だが利益は横ばい、財務体質は手元資金潤沢で堅い
・平均年収815万円で福利厚生も良好、平均勤続年数21年超と極めて良い
就職偏差値と難易度
✔就職偏差値:63(中堅上位)
サラリーマンの中堅上位クラスの待遇を得られ、世間的にも有名企業・大企業勤務として認知される。サラリーマンとして安定した人生が得られるが、入社するには人並み以上の努力が必要だろう。
詳細な企業分析は以下の業績動向・社員の待遇を参照。本レポート末尾に総合評価を記す。
✔就職難易度:難関
総合職の採用数は年間10人~20人と門戸が狭い。1990年代までは有名企業であったが、最近では一般知名度は低いため採用倍率は高まりにくい傾向。かなりの穴場。
採用大学:【国公立】筑波大学・広島大学・東京農工大学・静岡大学・秋田大学・琉球大学・横浜市立大学・兵庫県立大学など、【私立】明治大学・中央大学・法政大学・立命館大学・学習院大学・日本大学・亜細亜大学・東京理科大学・芝浦工業大学・工学院大学・東京電機大学など(出典:リクナビ2026)
業績動向
✔売上高と営業利益
理想科学工業の売上高は2018年まで830億~850億円ほどで推移していたが、同年以降は低迷傾向がみられる*1。2024年には売上高787億円まで回復したが、1997年の売上高955億円と比べると停滞感は強い*2。営業利益は2020年のみ13億円まで縮小したが、同年以降は40億~60億円ほどで安定的。
*1:2019年に売上高が急落した理由は、COVID-19感染拡大期における外出自粛。当社の主要顧客である企業・官公庁・学校において印刷機会が急減したことが痛手に。
*2:当社の売上高が長期的に減少している要因は、企業・学校においてデジタル化・ペーパーレス化が進んだことによる印刷機会の減少がある。
✔セグメント別の状況
理想科学工業は、印刷機器事業(孔版印刷機・高速カラープリンタ・デジタル印刷機・プロダクションプリンタ・クラウドサービスなど)、不動産事業(ONE表参道・MPR新大阪ビルなどの賃貸)、の2事業を有する。
当社は祖業の印刷用機器に特化した事業展開を進めており、事業多角化を進めている同業他社(キヤノン・リコー・セイコーエプソン・ブラザー工業など)とは明確に異なる戦略を採っている。過去に取得した東京都心・大阪都心のオフィスビルからの賃貸収入も業績を下支えしており、とりわけ東京・表参道の一等地に立地する『ONE表参道』は高い競争力がある優良物件として知られる。
✔最終利益と利益率
理想科学工業の純利益は2019年・2020年を除けば、概ね25億~48億円ほどで推移している。営業利益率は2019年・2020年を除けば4%〜7%で推移しており、大手メーカーの標準的な水準を確保できている。
✔自己資本比率と純資産
理想科学工業の自己資本比率は70%~75%ほどの高水準で安定している。有利子負債はごく僅かしかなく、実質無借金経営を達成*3。純資産は2019年を除けば610億~670億円ほどで横ばい。
*3:同業他社(キヤノン・リコー・セイコーエプソン・ブラザー工業など)は事務用プリンタの斜陽化を踏まえて事業多角化への積極投資を進めているが、当社は事業多角化はせずに財務体質を堅牢に保つことに注力している。もともと当社は事業規模が小さいため無理な事業多角化を進める余力がないことも一因。
社員の待遇
✔平均年収と平均年齢
理想科学工業の平均年収は2020年まで700万~770万円ほどの水準で推移していたが、2024年には815万円まで上振れしている。当社を規模で圧倒する同業他社と遜色がない給与水準を確保できている。総合職の場合、30歳で年収580万〜630万円、課長職レベルで年収930万~1,150万円が目安となる。
✔従業員数と勤続年数
理想科学工業の単体従業員数は2018年をピークに減少傾向へと転換、2024年は1,530人規模の組織体制となっている。子会社や関連会社の従業員も含めた連結従業員数は2,850人ほど。平均勤続年数は22.0年(2024年)となっており、従業員の定着は極めて良い。
総合評価
企業格付け:CC
■業績動向
微減傾向。海外売上高比率は50%に達するグローバル企業であるが、世界的なペーパーレス化・デジタル化の潮流により印刷需要が縮小している点が逆風。持ち前の高速印刷技術によって独特の地位を築いてはいるが、印刷需要そのものが減少しているため長期的な業績拡大を狙えるような状況にはない。とはいえ、オフィスからすべての紙が消滅することはありえないうえ、世界トップの高速印刷技術は一定の引き合いがある。利益率も悪くない水準で安定的であるため、需要縮小する環境下で適正規模へ縮小することで生き残れるだろう。
■財務体質
極めて良好。自己資本比率も74.8%(2024年)と負債比率は低く、財務体質は極めて健全な状態にある。有利子負債が44億円(2024年)に対して手元の現預金は137億円(2024年)を確保しており、有利子負債を大きく上回る手元資金を確保できているのも安心材料だろう。
■ビジネス動向
インクジェット印刷へのシフトを模索。主力製品である孔版印刷機『リソグラフ』は需要が縮小傾向にあるため、インクジェット印刷への転換を急ぐ。もともと当社のインクジェット事業はオリンパスとの合弁事業であったが、2011年からは当社単独で事業展開。2022年には毎分330枚もの印刷能力を確立した高速インクジェットプリンター『バレザスT2200』を投入。2024年には東芝テックのインクジェットヘッド事業を買収。
就職格付け:CC
■給与水準
平均年収815万円(2024年)と電機メーカーとしては高めの水準。業界最大手のキヤノン・セイコーエプソン・ブラザー工業と比べても、当社は企業規模が桁違いに小さいにも関わらず平均年収の差はさほどないことが美点。課長級となれば年収930万円以上には乗れるため、企業規模の割に給与水準は良いと言えるだろう。
■福利厚生
大手企業並みの水準。若手社員は28歳になるまで独身寮に入寮でき、家賃は月額7,500円と格安。家賃補助制度も整っており、最大3万円が年齢制限なしに支給される。扶養手当も月額1.6万円×扶養人数分まで支給される。大卒総合職の平均残業時間も11.8時間と短いうえ、年間休日も125日はある。平均勤続年数22年以上という破格の定着の良さからも、居心地の良さが伺える。
■キャリア
大卒総合職はナショナル職と呼ばれ、転勤制限はない。営業職は日本全国に支店があるため転勤への覚悟が必要だが、技術職は茨城県に拠点が集中している為に転勤リスクは薄い。年功序列色が強いものの、実力がある社員については30代後半には管理職に昇格させる柔軟さもある。海外売上高比率50%のグローバル企業であるため、海外赴任の可能性も一定程度ある。