企業概要
日本航空は、旅客・貨物輸送を主力とする大手航空会社。1951年にGHQによる航空機運航解禁をうけて政府主導で創業。創業直後は国内線に限られたが、1954年には国際線を羽田~サンフランシスコ間で開始。1980年代にはボーイング747を大量配備、日本人の海外旅行ニーズを支えた。が、その陰では国際線拡大・大型機増加による高コスト体質が定着。1990年代と2000年代に経営危機に直面、2010年に経営破綻。その後、京セラ会長・稲盛和夫により再建。現在ではANAと並ぶ日本を代表する航空会社として復活。
・ANAと双璧を為す大手航空会社、傘下企業にはジェットスターなどのLCCも
・売上高・利益いずれも不安定、2020年にはCOVID-19で大打撃
・平均年収921万円だが、業績悪化時には平均年収678万円まで減少
就職偏差値と難易度
✔就職偏差値:68(上位)
かなりの勝ち組サラリーマン。日系大企業としては上位級の待遇をしっかりと得られる。入社するには相応の能力が必要であるが、立ち回りを工夫すればチャンスはそれなりにある。
詳細な企業分析は以下の業績動向・社員の待遇を参照。本レポート末尾に総合評価を記す。
✔就職難易度:難関上位級
採用数は年間800名~950名と極めて多いが、内訳は総合職100名・パイロット50名・客室乗務員700人ほど。華やかな航空業界のイメージもあって採用倍率はいずれの職種も高い。
採用大学:【国公立】東京大学・一橋大学・大阪大学・神戸大学・筑波大学など、【私立】慶応義塾大学・早稲田大学・明治大学・立教大学・青山学院大学・桜美林大学・聖心女子大学など(出典:大学通信ONLINE)
業績動向
✔売上高と営業利益
日本航空の売上高は2019年までは1.2兆~1.5兆円で安定していたが、2020年に売上高0.48億円まで激減*1。同年以降は回復傾向に転換しており、2024年には売上高1.84兆円まで回復。営業利益も2020年~2021年に大赤字に陥ったが、2024年には1,686億円まで回復している。
*1:2020年の売上高の低迷は、世界的なCOVID-19感染拡大による航空需要の消失が主要因。実質的な鎖国状態となったことで航空旅客数が極端に落ち込み、政府からの補助金もなかったことが主要因。
✔セグメント別の状況
日本航空は、国際線事業(世界50ヶ国以上への国際路線による旅客輸送・貨物輸送、国内60空港間における旅客輸送・貨物輸送)、LCC事業(ZIPAIR・スプリングジャパン・ジェットスタージャパンなどローコストキャリアの運航)、金融・コマース事業(マイレージサービス・旅客販売・クレジットカード事業)、その他事業(旅行・空港施設運営など)、の4事業を有する。
当社は売上高の約80%以上を航空事業(フルキャリアサービス・LCC)で稼いでおり、業績における航空事業の占める割合は高い。旅客・貨物輸送のニーズが高い好景気・安定期であれば業績好調となる反面、政治・経済の動向によって航空産業が落ち込むと業績が顕著に悪化しやすい。
✔最終利益と利益率
日本航空の純利益は2020年~2021年にかけて極端な悪化に見舞われ、2020年には純損失2,866億円を計上。2024年には純利益1,070億円まで回復したが、全盛期には及ばず。営業利益率は平常時には8%~12%ほどだが、2020年には営業利益率▲81.1%という極端な赤字幅を記録。
✔自己資本比率と純資産
日本航空の自己資本比率は2017年には57.2%と高水準にあったが、その後の業績悪化により減少。2024年は自己資本比率34.3%に留まっており、好不況が激しい航空業界の企業としては心もとない。純資産も2017年のピークから業績悪化により減少、2024年の純資産は1.01兆円となっている。
社員の待遇
✔平均年収と平均年齢
日本航空の平均年収は概ね800万~850万円ほどの水準で推移しているが、2020年には平均年収678万円まで急減*2。ただし、2024年には平均年収921万円まで上振れしている。総合職の場合、30歳で年収600万〜680万円、課長職レベルで年収950万~1,100万円が目安。
*2:同業のANAは従業員の賞与0円・基本給&諸手当5%削減などで従業員の年収を大胆にカットしたが、日本航空は従業員の年収削減を抑制。少ないながらも賞与・特別手当を支給して従業員の生活を守った点に両社の相違点があった。
✔従業員数と勤続年数
日本航空の単体従業員数は概ね1.1万~1.3万人規模で横ばいの推移となっている。子会社や関連会社の従業員も含めた連結従業員数は3.6万人規模。平均勤続年数は15.4年(2023年)と大手企業の標準的な水準。
総合評価
企業格付け:BB
ANAと双璧を為す大手航空会社であり、傘下にはジェットスター・ジェイエアなどのLCC企業も多数。日本の航空産業の黎明期から歴史を重ねてきた企業であり、日本のフラッググキャリアとして世界的な知名度を誇る。2010年の経営破綻時には給与カット・人員削減に加えて企業ブランドも大きく毀損したが、2012年には再上場を早々に果たして復活。ただし、業績はお世辞にも安定しておらず、2018年までは堅調であったものの2019年のCOVID-19感染拡大により業績悪化。2020年には売上高が半分以下に落ち込み、純損失3,906億円を計上する事態に陥った。2000年代にも9・11同時多発テロ事件やSARS流行によって業績悪化を経験しており、歴史的にみても定期的にこうした業績悪化に見舞われており、世間のイメージとは異なり「安定企業」とは程遠い。2022年には黒字化を果たしたものの、数年間に及ぶ業績不振で財務体質は悪化。自己資本比率は30%台にまで低迷しており、COVID-19に続く次なる環境悪化が起こる前に財務体質の回復を達成できるかが焦点。
就職格付け:BB
知名度と企業イメージでは群を抜く企業であり、就職人気ランキングでも上位常連。しかしながら、航空会社は「華やかな安定業界」に思われがちだが、経営危機と統廃合を繰り返してきた不安定な業界である。2000年代には9・11同時多発テロ事件とSARS流行、2020年代にはCOVID-19感染拡大によって、全世界の航空会社が経営危機に陥っている。先進国の大手航空会社も数多の倒産を繰り返しており、過去に倒産した大手航空会社は枚挙に暇がない(参考リンク)。当社もその例に漏れず、2010年の経営破綻時には人員削減・給与カットが断行された他、2020年の業績悪化時にも人件費カットなど、従業員にとっては辛い局面を何度も経験している。航空業界は煌びやかなイメージから「勝ち組」業界と思われがちだが、実際には不安定な業界であることへの理解は必要。ただし、同業のANAと比べると業績悪化時における給与カットは甘い。賞与ゼロなどの極端な給与カットはされなかった上、賞与削減を補填する為に特別手当を支給する等の温和措置も(参考リンク)。相対的には従業員への温情度合いは認められるだろう。