企業概要
ヤマトホールディングスは、個人向け宅配サービス・企業向け物流サービスを主力とする大手物流会社。1919年に貸切トラック会社として創業。1923年には三越百貨店の商品配送業者として小口配送へと進出、1929年には日本初の路線トラック輸送を開始して陸運業界の有力企業へと躍進。1976年に小口貨物宅配『宅急便』を開始、高速・安価・便利な『宅急便』は日本の物流業界に革命を起こした。現在では宅配便市場で断トツ首位のシェアを掌握。物流業界において日本郵便・日本通運に続く第3位の規模を誇る。
・宅配分野で国内断トツ首位の物流会社、法人向け物流サービスにも注力
・売上高・利益は2021年からやや失速して減益、財務体質はかなり良好
・総合職は30歳前後で年収700万円は超える、福利厚生は可もなく不可もない
就職偏差値と難易度
✔就職偏差値:61(中堅上位)
サラリーマンの中堅上位クラスの待遇を得られ、世間的にも有名企業・大企業勤務として認知される。サラリーマンとして安定した人生が得られるが、入社するには人並み以上の努力が必要だろう。
詳細な企業分析は以下の業績動向・社員の待遇を参照。本レポート末尾に総合評価を記す。
✔就職難易度:中難易度
総合職の採用実績は年間70名~120名ほど。不人気な物流業界の中でも好イメージを確立しており、一定の人気はある。中堅大学からも採用実績は多く、学歴による差別がない。
採用大学:【国公立】金沢大学・千葉大学・埼玉大学・信州大学・富山大学・鳥取大学・北九州市立大学・福知山公立大学など、【私立】明治大学・青山学院大学・立命館大学・日本大学・近畿大学・大東文化大学・龍谷大学・立正大学・千葉商科大学・広島修道大学・桜美林大学など(出典:マイナビ2027)
業績動向
✔売上高と営業利益
ヤマトホールディングスの売上高は2022年に過去最高となる売上高1.8兆円に到達*1したが、同年以降は1.7兆円レベルでの横ばいが続いている。営業利益は2020年には過去最高となる921億円に急増*2したが、同年以降は減少傾向。2024年には営業利益142億円まで後退している。
*1:2022年に売上高が増加した理由は、①COVID-19感染拡大後におけるECサービスおよびフリマ・オークションアプリの利用増加、②法人向けサービスの堅調な引き合い、など(参考リンク)。
*2:2020年に営業利益が急増した理由は、①COVID-19感染拡大による外出自粛によるECサービスの利用急増、②燃料価格の低迷による輸送コストの減少、など(参考リンク)。
✔セグメント別の状況
ヤマトホールディングスは、エクスプレス事業(個人・法人向け宅配、貨物自動車運送・ロールボックス貸切輸送など)、コントラクト・ロジスティクス事業(3PL・不動産賃貸など)、グローバル事業(法人向け運送・物流センター運営、通関・航空運送代理店など)、モビリティ事業(自動車整備・燃料販売・損害保険代理店など)、その他事業(ITシステム開発・運用、コールセンター運営、金融サービス)、の5事業を有する。
当社は宅配ビジネスを担うエクスプレス事業が売上高・利益の大半を占めており、まさにラストマイルの小口配送が主力事業となっている。最近では法人ビジネス領域の拡大を志向しており、法人サプライチェーンのEnd to Endまでを対応できるサービス提供を目指している(参考リンク)。
✔最終利益と利益率
ヤマトホールディングスの純利益は2019年まで200億円前後で停滞*3していたが、2020年以降は380億〜560億円ほどで推移している。営業利益率は2020年に5%を超えたが、同年以降は減少傾向。2024年には営業利益率0.81%に下落している。
*3:2016年から利益停滞していた理由は、同年に発覚した未払い残業代問題が主要因(参考リンク)。従業員4万人以上に残業代を支払わない労働が常態化していたことが社会問題化、未払い分を一時金として支給したことで大きな出費が発生。同年以降も残業代負担が増加した他、働き方改革に向けた投資が増えたことが業績の重荷となった経緯がある。
✔自己資本比率と純資産
ヤマトホールディングスの自己資本比率は2022年に56.5%に到達したが、同年以降はやや減少。2024年は自己資本比率46.5%となっているが、今なお負債に依存しすぎない事業運営ができている。純資産は過去8年間に渡って5,500億〜6,100億円での横ばいが続いている。
社員の待遇
✔平均年収と平均年齢
ヤマトホールディングスの平均年収は長期的に910万~1,220万円で推移しているが、これは持株会社の社員のみの平均年収であるため参考にならない。総合職は30歳過ぎの係長職で年収700万〜750万円ほど、課長職レベルで850万〜1,150万円ほど。ドライバー職は歩合給により変動するが、年収400万〜500万円が相場。
✔従業員数と勤続年数
ヤマトホールディングスは持株会社の従業員は15人(2024年)と極僅かであり、殆どの従業員は事業会社に属している。事業会社や関連会社の従業員も含めた連結従業員数は17.2万人に達する。平均勤続年数は24.7年(2024年)と長いが、これは持株会社の15人の平均勤続年数であるため参考にならない。
総合評価
企業格付け:B
■業績動向
2022年をピークに売上高が頭打ち、かつ利益が減少傾向。インターネットを介したECサービス・個人間売買の拡大により主力の宅急便需要は増加が続いており好調。だが、2021年以降は人件費・燃料費の高騰がコスト増加を招いている。2024年末までに配送を委託していた個人事業主3万人と契約を終了、日本郵便と提携して配送効率化を進めることでコスト削減を進める方針…であったが、日本郵便と訴訟問題に発展(参考リンク)。
■財務体質
良好。自己資本比率は46.5%(2024年)とかなり高く、負債への依存度が低い。手元の現預金も2,081億円(2024年)と事業規模を考えれば十分以上。利益の浮き沈みはあるが通年で赤字転落したことは2008年以降は1度もないため、十分な財務健全性を維持していると評価できよう。
■ビジネス動向
法人事業・グローバル展開を加速。国内におけるリテール事業は業界トップシェアを確立しているうえ好調であるため、法人事業・グローバル展開の加速によって更なる成長を目指す方針。特に法人事業では、宅急便顧客として獲得した法人顧客のサプライチェーンに川上~川下まで入り込むことで、強固な取引関係の構築を狙う。環境対応も急いでおり、EVトラックの導入計画も策定。
就職格付け:CC
■給与水準
物流業界としては高め。総合職なら30歳前後で年収600万円以上には到達、30代過ぎには係長職へと昇進することで年収700万円前後に達する。景気後退局面にも業績が安定している為、給与水準が安定している点は強みだろう。ドライバー職でも歩合給を含めれば年収400万円〜500万円は得られるため、中小輸送会社と比べれば傑出した水準である。
■福利厚生
可もなく不可もなし。家賃補助制度は地域手当によって代替されるが、支給額は2千円~2万円/月ほど。独身寮・社宅は一応存在しているが、入居できる人数に限りがあるため期待はしにくい。年間休日日数は118日と多くもなければ少なくもない。
■キャリア
総合職は幹部候補としての採用であり、昇進が非常に早いことが特徴。入社5~7年目には営業所長・マネージャーなどに昇格していく。売上高1兆円以上の大企業でスピード昇進できることは大きな魅力だが、年間100人前後の採用枠に留まるため企業規模の割には狭き門。ドライバー職は入社1年目に運転技術を習得して5年目までに独り立ちすることが求められる。以降は優秀なドライバーは営業所長に抜擢され、拠点運営に携わることもできる。
■残業代不払い問題
2016年に残業代不払い問題が発覚。ドライバーの労務管理において配達時間以外の準備作業・報告書作成などの時間を労働時間としてカウントしていなかったことが社会問題化。未払い残業代は従業員4万人以上にあったとされ、サービス残業前提の企業文化が社会的問題化。最終的に未払い残業代を支払うことで決着したが、過去2年分の遡及に留まった。