企業概要
マルハニチロは、①漁業・養殖などの水産資源トレード、②缶詰・冷凍食品などの加工食品を主力事業とする水産物系大手食品会社。2014年に水産加工大手のマルハとニチロが対等合併したことで誕生。合併前まで遡れば約140年間に渡って日本の水産事業を牽引してきた水産系最大手であり、マグロ・カンパチ・タコ・エビなどの流通において国内シェア最大手の一角。冷凍食品においても業界最大手であり、国内シェアはニッスイに続く第2位である。2010年には民間企業として初めてクロマグロ完全養殖にも成功。
・ニッスイと双璧を為す水産会社最大手の一角、冷凍食品も強い
・売上高はやや伸びるが利益率が低い、財務体質も負債が多いがゆえに弱め
・平均年収749万円だが、家賃補助・社宅を全廃止で魅力度が後退
就職偏差値と難易度
✔就職偏差値:64(中堅上位)
サラリーマンの中堅上位クラスの待遇を得られ、世間的にも有名企業・大企業勤務として認知される。サラリーマンとして安定した人生が得られるが、入社するには人並み以上の努力が必要だろう。
詳細な企業分析は以下の業績動向・社員の待遇を参照。本レポート末尾に総合評価を記す。
✔就職難易度:難関
総合職の採用実績は年間50名~70名ほど。水産業界ではニッスイと並んで一般知名度が高いために応募数も多く、選考倍率は相当に高い。海洋・水産系学生からの人気は非常に高い。
採用大学:【国公立】名古屋大学・神戸大学・広島大学・埼玉大学・滋賀大学・東京海洋大学・帯広畜産大学・京都工芸繊維大学・神戸市外国語大学など、【私立】慶應義塾大学・早稲田大学・明治大学・日本大学・駒澤大学・専修大学・東京理科大学・東京電機大学など(出典:マイナビ2026)
業績動向
✔売上高と営業利益
マルハニチロの売上高は0.8兆~1兆円レベルで安定的に推移している。2020年には売上高8,100億円まで減少したが、2022年・2023年は1兆円以上で推移している*1。営業利益は2020年まで減少が続いていたが、2021年~2023年は230億以上で推移。
*1:2020年の売上高の減少はCOVID-19感染拡大による外食需要の激減で高級魚などの水産商品が価格下落したことが主要因。2022年の売上高増加は、世界的な物価高騰による水産資源の価格上昇が主要因。
✔セグメント別の状況
マルハニチロは、水産資源事業(漁業・養殖・水産資源の調達販売、加工食品・すり身の生産など)、加工食品事業(冷凍食品・缶詰・ちくわ・フリーズドライ製品など)、食材流通事業(水産商材や業務用食材の提案販売など)、物流事業(冷凍品の輸配送)、その他事業(不動産など)、の5事業を有する。
当社は缶詰・冷凍食品のイメージが強いが、実際には水産資源事業が売上高・利益を支えるコア事業となっている。漁業・養殖などの調達から供給までを一気通貫で担える水産物サプライヤーとして年間70万トン以上の水産物を取り扱っている。
✔最終利益と利益率
マルハニチロの純利益は2020年のみ57億円に減少したが、同年を除けば120億~210億円ほどで横ばい。景気後退局面も含めて赤字転落することなく、純利益を確保できている。営業利益率は2%程度で長年推移しており、利益率はそれほど高くない。
✔自己資本比率と純資産
マルハニチロの自己資本比率は緩やかな増加傾向が続いているが、直近でも30.8%となっている。水産・食品メーカーとしては負債比率がやや高め*2。純資産は長年に渡って増加が続いていおり、直近では純資産2,454億円に到達している。
*2:大手食品会社は自己資本比率が40%~60%程の会社が多いため、業界内では相対的に財務基盤が強くない印象が際立ってしまう事情がある。
社員の待遇
✔平均年収と平均年齢
マルハニチロの平均年収は700万~740万円ほどの水準で極めて安定的に推移している。総合職の場合では、30歳で年収550万~620万円ほど、課長職レベルで年収850万~950万円が目安となる。年功序列職が強めの給与制度となっている。
✔従業員数と勤続年数
マルハニチロの単体従業員数は1,500人~1,600人ほどの水準で横ばいが続いている。子会社や関連会社の従業員も含めた連結従業員数は1.28万人ほど。平均勤続年数は直近で15.5年と水産・食品メーカーとしては標準的な水準。
総合評価
企業格付け:CCC
日本の水産業を牽引してきたリーディングカンパニーであり、ニッスイと双璧を為す企業。水産権益の確保から漁獲~調達~加工製品化までのプロセスを一気通貫で担うことができる企業は、当社を含めても数社しかない。「あけぼのさけ」や「さば水煮」などの缶詰製品や冷凍食品などのイメージが強いが、コア事業は水産資源のトレーディング。かつては遠洋漁業が最大の事業であり会、1960年代には800隻以上の船団を保有して世界中の海で漁獲をしていたが、1977年に200海里規制が導入されたことで漁場を喪失。それから水産トレーディングを主力事業とする水産会社として変革し、現在に至る。業績は売上高・利益いずれも安定的だが、営業利益率は長年に渡って1%~2%ほどの水準にあり、低利益率な印象は拭えない。財務体質も自己資本比率30%にようやく到達した状況であり、財務基盤が固い企業が多い食品業界においては見劣りしてしまう。
就職格付け:CCC
冷凍食品・缶詰などで国内シェア上位の為、一般社会においても良く知られた企業。水産資源の持続可能性にも正面から向き合っており、乱獲が進むクロマグロの完全養殖を実現する等の社会貢献も著名。平均年収は700万円台前半で長年安定しており、水産・食品メーカーとしてはかなり良好な待遇。総合職であれば30歳で年収550万~620万円ほど、課長職レベルで年収850万~950万円には達する。が、当社の課題は家賃補助制度・社宅制度を2022年の人事制度改革で廃止したこと(参考リンク)である。2021年までは家賃補助制度によって、月額家賃の80%が会社負担であったが、同年からは家賃補助制度が突然廃止される激変が起こった。表面上は「家賃補助を受給する社員/しない社員の公平化」を謳うが、社員間で異なるバックボーン(既婚/独身や実家暮らし/上京一人暮らしなど)を無視して一本化するのは却って不公平との声も。とりわけ入社間もない新入社員が実家から離れた遠方へと転勤となれば、年収400万円にも満たない状態で生活コストを大きく負担する必要に迫られるため、生活は楽ではない。福利厚生の廃止と引き換えに基本給は引き上げられたが、2023年の平均年収の上がり幅は極めて限定的であり不利益変更の感は否めない。せめて家賃補助額を段階的に減らすなどの緩和策が必要であっただろうか。