企業概要
電通は、テレビ広告・デジタル広告などあらゆる広告宣伝・マーケティングに関わる戦略策定~実行を支援する大手広告代理店。1901年に光永星郎が設立した日本広告を源流とし、戦時中には国家総動員体制の下で国内広告会社を統合、巨大広告代理店として君臨。戦後も業界屈指の企業として君臨し続けてきた。1973年には広告取扱高で世界首位を記録したことも。現在では海外広告代理店の積極買収によって広告業界で世界シェア6位、国内2位の博報堂DYに売上高で4倍の差をつけて独走。
・日系広告代理店として断トツ首位、世界でも上位6社に食い入る
・売上高は成長基調だが利益は伸び悩み。財務も自己資本比率19%と弱め
・持株会社の平均年収1,507万円だが、事業会社は30歳で年収900万円ほど
就職偏差値と難易度
✔就職偏差値:78(頂点)
サラリーマン社会の頂点。誰もが羨望する圧倒的な待遇・地位が約束されるスーパーエリート。入社できるのは同世代の極一握りに限られ、超人的な能力・努力・運がすべて必要となる。
詳細な企業分析は以下の業績動向・社員の待遇を参照。本レポート末尾に総合評価を記す。
✔就職難易度:最難関級
総合職の採用数は年間100人ほど、広告業界のトップ企業だけあって倍率は極めて高い。大卒総合職はトップレベル大学の出身者かつ何らかの実績がある人材が大多数であり、極めて狭き門である。
採用大学:【国公立】東京大学・京都大学・一橋大学・名古屋大学・東北大学・筑波大学・新潟大学・東京外国語大学など、【私立】慶應義塾大学・早稲田大学・上智大学・同志社大学・立教大学・青山学院大学・東京理科大学・多摩美術大学など(出典:大学通信ONLINE)
業績動向
✔売上高と営業利益
電通グループの売上高は2021年から増加傾向が続いており、2024年には過去最高となる1.41兆円に到達している*1。営業利益は2021年に2,418億円を記録したが、2020年には▲1,406億円・2024年には▲1,249億円の赤字転落。営業利益が安定性を欠く状況が続いている。
*1:当社は2014年以前は売上高2兆円に迫る水準で推移していたが、同年に国際会計基準IFRSへ移行。会計基準の収益認識の相違から2014年以前の収益とは単純比較できない。
*2:2020年はCOVID-19感染拡大によるマーケティング需要の激減で業績悪化。自粛ムードの広がりで主力のテレビ広告が打撃を受けたことが痛手に。
*3:2024年の営業赤字は、欧州・中東・アフリカ・米州における過去に買収した企業の減損損失が主要因。世界的な景気減速による広告需要の縮小やDX・コンサル事業の成長一服が痛手に(参考リンク)。
✔セグメント別の状況
電通グループは国内事業(国内向けの広告・マーケティングサービス、コンテンツビジネス、情報システム・ソフトウェア開発など)、北米事業(北米地域における同事業)、EMEA事業(欧州・中東・アフリカにおける同事業)、APAC事業(東南アジア・南アジア・オセアニアにおける同事業)、の4事業を有する。
当社は収益の約59%を海外で稼いでおり、グローバル展開が進んだ広告会社である。2013年には世界的大手の英・イージス社を約4,000億円で買収して、世界的な広告代理店への成長を果たした。他方で、2024年には海外事業で巨額赤字を計上しており、最新の中期経営計画では「大きなスケールと事業アセットのある日本・USに集中」する方針を掲げている。
✔最終利益と利益率
電通グループの純利益は年度により好不調が分かれる。2019年・2020年にはCOVID-19影響で大幅赤字を計上*4した他、2024年にも純損失▲1,921億円に転落。営業利益率も不安定な傾向が強く、2021年を除けば▲14%~14%で推移している。世間が思うような高利益企業ではない。
*4:2021年にはいったん黒字化を果たしたが、同年に当社は構造改革の一環として電通本社ビルや研修所などを売却。固定資産売却益1,189億円を計上しての純利益確保であり、本業好調による増益ではない。
✔自己資本比率と純資産
電通グループの自己資本比率は緩やかな減少傾向にあり、2024年には19.9%とかなり低めの水準*5。純資産も2017年の1.15兆円から下落傾向が続いており、2024年には0.76兆円まで後退。純資産を増加させられない状況が続いている。
*5:当社は2013年に同業の英イージスを買収するために社債・有利子負債による巨額の資金調達を実施。自己資本比率は40%台から20%台まで下落した。それから財務体質の回復は緩慢であり、自己資本比率20%台での低空飛行が続く。
社員の待遇
✔平均年収と平均年齢
電通グループの平均年収は1,507万円(2024年)と極めて高水準だが、これは持株会社の131名のみの平均年収であるため参考にならない。実際には、大卒総合職・30歳で年収850万~950万円ほど、課長職レベルで年収1,500万~1,900万円程度。平均年齢は2020年に46歳まで急増している*6。
*6:当社は2020年に持株会社体制へ移行、これにより持株会社の従業員129名のみを対象とした平均年収・平均年齢に変更となったことに起因。
✔従業員数と勤続年数
電通グループの単体従業員数は2020年の持株会社制への移行により100名規模まで急減しており、従業員の殆どは事業会社に属している。子会社・関連会社を合わせた連結従業員数は6.76万人規模である。平均勤続年数は14.1年(2024年)だが、これは持株会社の131名のみの平均勤続年数であり参考にならない。
総合評価
企業格付け:S
■業界ポジション
日本の広告業界において断トツ首位の存在であり、業界2位の博報堂DYに売上高で4倍の差をつけている業界の巨人。世間においては時に陰謀論の槍玉にあげられがちな存在であるが、近年の業績に目覚ましいものはまったくない。社運を賭けて2013年に英・イージス社を巨額買収した後にネット広告分野が急激に勃興、競争激化による逆風が続いている。
■業績動向
停滞。売上高は過去最高圏に達してはいるが、利益が冴えない。営業利益率は2021年をピークに右肩下がりであり、2023年には▲8.86%台まで低下。英・イージス社を買収した2013年当時はまだスマートフォン黎明期であったが、それから10年余りで広告業界が激変して従来型のビジネスモデルの限界に直面している。
■財務体質
微妙。直近の自己資本比率は19.9%(2024年)とかなり低めの水準であり、有利子負債も5,473億円(2023年)とかなり大きい。英イージスの買収に約4,000億円もの巨額資金を投じてから負債比率が高い事業運営となっているうえ、最近の業績不振は債務返済のリスクとなっている。本来であれば買収後の業績拡大が見込まれていたが、それが実らなかったのは痛い。
■将来戦略
新興ネット広告企業や外資系コンサル会社が広告分野へと積極進出している事態を受けて、新たなる価値創造モデル「B2B2S」を定義したうえで中期経営計画をアップデート。単なる広告枠販売のビジネスモデルに留まらず、「B-to-B」のさらにその先にあるS(社会=ソサイエティ)と向き合う、「B-to-B-to-S(Business to Business to Society)」を掲げる。
就職格付け:SS
■給与水準
直近の平均年収は1,507万円(2024年)と高いが、これは持株会社の131名のみの平均年収。最近では給与水準も卓越してはおらず、大卒総合職なら30歳前後で年収850~950万円ほど、課長職レベルで年収1,500万~1,900万円ほど。かつては超長時間労働により30歳で年収1,000万円の突破も可能であったが、ワークライフバランス改革&業績不調により現在では30歳で年収1,000万円は超えにくい状況。
■福利厚生
良い。人財がビジネスの核となる業種だけあって従業員への待遇強化には相当に力を入れている。例えば、①格安で入居できる借上げ社宅制度、②東京ディズニーリゾートへの社員・家族の無料招待(年1回)、③人間ドックの毎年受診(年1回)、など。ただし、長引く業績停滞により福利厚生も見直されるリスクはある。
■キャリア
総合職・デジタルクリエイティブ職・アート職の3職種制。職種別採用であり、入社時点での職種によりキャリアが決まる。総合職は全部署に配属の可能性がある一方、デジタルクリエイティブ職・アート職は配属部署が固定となる。かつては年功序列色が強かったが、人事制度改革によって10年目以降には実力主義へと移行する制度設計となった。最近は業績が冴えないとはいえ、転職市場において元電通という肩書の神通力は絶大。依然として就職格付けは最上位級である。