企業概要
三菱電機は、エレベーター・パワー半導体・PLC・人工衛星など幅広い電気製品を製造販売する大手総合電機メーカー。1921年に三菱造船から電機製作所が分社化して独立、100年以上に渡って変圧器・電動機をはじめとする重電・軽電機器を製造してきた。多種多様な製品でニッチに稼ぐ戦略を得意としており、特定製品に依存することなく手堅く利益を確保する事業構造。エレベーター・エスカレーターで国内シェア首位、鉄道車両電装品・エンジン電装品・パワー半導体・エアコンなどでシェア上位。
・三菱Gの総合電機メーカー、BtoB領域では世界的シェアの製品多数
・売上高・利益は過去最高圏に拡大、財務体質は大いに良好
・平均年収869万円と業界上位で福利厚生も良好、労災自殺の頻発は課題
就職偏差値と難易度
✔就職偏差値:68(上位)
かなりの勝ち組サラリーマン。業績・財務の実力からすれば更なる高査定でも不思議ではないが、昨今の不祥事・パワハラ問題が足を引っ張る。企業体質の変革に期待。
詳細な企業分析は以下の業績動向・社員の待遇を参照。本レポート末尾に総合評価を記す。
✔就職難易度:やや難関
総合職の採用人数は年間600人~~800人と非常に多く、大手メーカーのなかでは傑出して門戸が広い。総合職の出身大学はハイレベル大学~中堅大学まで幅広く、特定の大学には偏っていない。
採用大学:【国公立】大阪大学・神戸大学・大阪府立大学・九州工業大学・豊橋科学技術大学など、【私立】慶應義塾大学・早稲田大学・明治大学・中央大学・青山学院大学・同志社大学・関西学院大学・立命館大学・日本大学・東京理科大学・東京電機大学・芝浦工業大学・成蹊大学など(出典:大学通信ONLINE)
業績動向
✔売上高と営業利益
三菱電機の売上高は2021年まで4.2兆~4.5兆円レベルで安定的に推移していたが、同年以降は増加傾向。2024年には過去最高となる売上高5.52兆円に到達*1。営業利益は2020年まで減少傾向がみられたが、2021年からは増加傾向に転換。2024年には営業利益3,918億円に到達している。
*1:2024年に売上高・利益を伸ばした理由は、①国内外における鉄道車両・交通システムの受注好調、②無停電電源装置・データセンター向け電力システムの販売増加、③防衛政策の転換による防衛システムの大口案件の増加、など(参考リンク)。
✔セグメント別の状況
三菱電機は、インフラ事業(電動機・変圧器・パワーエレクトロニクス機器・タービン発電機・原子力機器・放送機器・人工衛星・ネットワークシステムなど)、インダストリー・モビリティ事業(PLC・インバータ・サーボ・電動機・カーエレクトロニクス機器など)、ライフ事業(エレベータ・エスカレータ・ビル管理システムエアコン・冷蔵庫・空気清浄機など)、ビジネスプラットフォーム事業(パワーモジュール・高周波素子・光素子など)、その他事業(物流・不動産・金融など)、の5事業を有する。
当社は大手電機メーカーの中でもトップクラスに幅広い事業領域を有している点が特徴。一般的にはエアコン・テレビ・エレベーターなどのイメージが強いが、これらのライフ事業が当社の売上高に占める割合は約38%に過ぎない。実際にはBtoB分野のインフラ事業やインダストリー・モビリティ事業が売上高の柱となっている。
✔最終利益と利益率
三菱電機の純利益は2022年まで1,900億~2,550億円ほどで安定的に推移していたが、2024年には過去最高となる3,240億円に上振れ。2021年には品質問題によって利益停滞を強いられた*2が、既に回復している。営業利益率は5%~7%ほどの水準で安定的に推移している。
*2:当社は2021年6月に組織的な検査・品質の不正問題が発覚(参考リンク)。あらゆる事業領域で不正が横行する企業体質が暴露されたが、業績影響は軽微であった。ただし、莫大な社内リソースが不正問題の鎮火に投じられたことで業績は停滞。
✔自己資本比率と純資産
三菱電機の自己資本比率は緩やかな増加傾向が続いており、2024年には61.9%に到達している。負債に依存しすぎない事業運営ができており、大手電機メーカーとしては最優良クラスである*3。純資産は2020年から右肩上がりで増加しており、2024年には4.07兆円に到達している。
*3:日系大手電機メーカーの中でも当社の自己資本比率はトップクラス。日立製作所・ソニー・パナソニック・キヤノン・富士通・NECのいずれよりも高い水準にある。
社員の待遇
✔平均年収と平均年齢
三菱電機の平均年収は869万円(2024年)と、大手電機メーカーでも上位級の給与が得られる。大卒総合職の場合、30歳で年収700万~820万円、課長職レベルで年収1,200万~1,300万円ほど。2024年に人事制度改革によって年功序列色が薄められた*4。平均年齢は41.3歳(2024年)と大手企業の標準的な水準。
*4:当社は2024年に約20年ぶりとなる人事制度改革を実施。評価基準は「成果評価」と「行動評価」の2つとなり、業績評価に応じて賃金・賞与がダイレクトに変動する制度となった(参考リンク)。
✔従業員数と勤続年数
三菱電機の単体従業員数は2023年まで3.5万~3.6万人ほどで安定していたが、2024年には3.12万人に減少*5。子会社・関係会社を含めた連結従業員数は14.9万人にも達しており、源流である三菱重工を遥かに上回る大所。平均勤続年数は16.3年(2024年)と大手企業の標準的水準をやや上回る。
*5:当社は2024年に収益が低迷していた自動車機器事業を三菱電機モビリティとして分社化(参考リンク)。これにより単体従業員数が減少した経緯がある。
総合評価
企業格付け:A
■業界ポジション
三菱グループの大手電機メーカー、他電機大手と比べるといまいち地味で目立たないが売上高5兆円規模の大手。他の業界大手と比較した当社の強みは歴史的にBtoB分野に注力してきた点にあり、中韓系電機メーカーの躍進が進んだ現在においても生き残りに成功している。多くの分野で一定以上の競争力を有しており、世界的シェアを握るニッチ分野は枚挙に暇がない。
■業績動向
好調。売上高・利益いずれも2024年に過去最高圏へと増大。とりわけ業績拡大を支えているのは交通インフラ分野と防衛分野。交通インフラ分野は国内外における大型案件の受注好調が追い風となっており、防衛分野は防衛政策の転換による受注拡大が追い風。当社はBtoB分野が主力かつニッチ分野で存在感を発揮する製品が多いため、価格競争に晒されにくいことも強み。
■財務体質
良い。自己資本比率は61.9%(2024年)と同業大手よりも高く、負債に依存しない事業運営においては業界トップクラス。手元の現預金は7,573億円(2024年)に及んでおり、相当のキャッシュリッチ企業でもある。特定事業に依存しないバランスの取れた事業構造により、特定分野が傾いたとしても企業存続に支障は全くないことも強味。
就職格付け:BB
■給与水準
平均年収869万円(2024年)と、大手電機メーカー他社と同等クラス。大卒総合職ならば30歳で年収700~820万円、課長職になれば1,200万円を越える。2024年の人事制度改革によって若手社員でも実力さえあれば早期昇進できる制度へと転換されており、年功序列色が薄まりつつある状況にある。
■福利厚生
大手メーカーなりの制度が整っている。若手社員向けに独身寮・家賃補助制度が整っており、住宅コストの負担が抑えられる。家賃補助制度では入社後8年間に渡って家賃額の半額(最大5.5万円)が補助されるため有難い。また、転居を伴う転勤があった場合には家賃補助制度の適用期間がリセットされるため、転勤者への配慮もある。
■キャリア
事務系総合職・技術系総合職の2職種制。新卒採用・中途採用いずれも採用面接を経て、配属先が明らかにされるため、ミスマッチングは起こりにくい。基本的には入社した部門・職種にて経験を蓄積していくキャリアが主であるが、多種多様な事業部門があるが故にどの事業部門に所属するかは重要事項。現代表執行役社長はFAシステム畑の出身である。
■組織的問題
2012年から2020年までの8年間で労災認定者・自殺者が5回も発生。2019年に自殺した新入社員の遺書には「殺す」「自殺しろ」と罵倒されたことが綴られていた(参考リンク)。2022年には新入社員の自殺者との和解が成立するも、新入社員の自殺者遺族に対して3年間に渡って裁判を続けていた。2021年には組織的な検査・品質の不正問題が発覚。業績・財務の好調さと、働きやすい職場かどうかは別問題なのかもしれない。