企業概要
アステラス製薬は、がん治療剤・白血病治療剤・貧血治療剤・免疫抑制剤などを主力とする大手製薬メーカー。2005年に藤沢薬品工業と山之内製薬が合併して誕生。日系製薬メーカーとしては国内3位の売上高を誇り、グローバル市場でも上位20社に数えられる大手。泌尿器疾患と移植領域では世界市場においても優位性を確立しており、世界約70ヵ国以上で事業展開している。最主力製品は前立腺がん治療薬「イクスタンジ」であり、単一製品で6,000億円以上を売り上げる。
・日系製薬メーカーにおける最大手の一角、泌尿器疾患・移植領域に強い
・売上高・利益は安定的だが特定医薬品に業績を依存、新薬開発計画は混乱ぎみ
・平均年収1,110万円、福利厚生も極めて充実しており住宅補助が手厚い
就職偏差値と難易度
✔就職偏差値:74(最上位)
日本社会におけるサラリーマンの最上位クラスの待遇を得られる。勝ち組サラリーマンとして胸を張れる人生が得られるが、入社するには相当以上の能力もしくは運が必要。
詳細な企業分析は以下の業績動向・社員の待遇を参照。本レポート末尾に総合評価を記す。
✔就職難易度:難関上位級
総合職の採用人数は年間60人~80前後であり、企業規模なりの採用規模。しかしながら、総合職の出身大学は旧帝大・早慶がボリューム層。名門製薬メーカーゆえに、就職難易度は相当に高い。
採用大学:【国公立】東京大学・京都大学・大阪大学・東京工業大学・筑波大学・千葉大学など、【私立】慶応義塾大学・早稲田大学・東京理科大学大学など(出典:ダイヤモンドオンライン)
業績動向
✔売上高と営業利益
アステラス製薬の売上高は2021年まで1.3兆円レベルで安定していたが、2023年には売上高1.6兆円まで増加*1。営業利益は2019年から低迷傾向が強く、2023年には遂に営業利益255億円まで低下*2。
*1:2023年に売上高が増加した理由は、①為替レートの円安推移による為替効果、②主力薬「イクスタンジ」「パドセブ」の販売好調、が主要因。
*2:2019年以降のアステラス製薬は新薬の開発計画の中止・変更による減損損失が続いており営業利益が低迷。既存薬の販売は絶好調であるものの、新薬開発に苦戦が続く。
✔セグメント別の状況
アステラス製薬は、イクスタンジ(前立腺がん治療薬)、プログラフ(免疫抑制剤)、ベタニス(過活動膀胱治療剤)、ゾスパタ(FLT3遺伝子変異陽性急性骨髄性白血病治療剤)、パドセブ(局所進行性または転移性尿路上皮がん治療剤)、ベシケア(過活動膀胱治療剤)、その他事業、の7事業を有する。
アステラス製薬は売上高の約43%を前立腺がん治療薬「イクスタンジ」に依存、そのため2027年に同薬の特許切れが迫ることが切実な課題。製薬業界では従来の治療方法を覆す革命的薬品を生みだす薬品を”ブロックバスター”と呼ぶが、同薬はその典型。
✔最終利益と利益率
アステラス製薬の純利益は安定的に確保されているが、2019年頃から1,000億円前後の水準へダウン*3。2023年には営業利益低迷によって純利益170億円まで低下した。営業利益率は好調時には15~20%にも達するが、直近の2023年には1.59%まで低迷しており厳しい状況。
*3:2019年以降の純利益の停滞は上述した新薬の開発計画の中止・変更による減損損失が原因。
✔自己資本比率と純資産
アステラス製薬の自己資本比率は2016年の70.1%をピークに減少気味。2023年には自己資本比率44.7%まで急低下している*4。純資産は2019年から微増傾向が続いており、直近の2023年には1.59兆円に到達。
*4:2023年に自己資本比率が低下した理由は、米・アイベリックバイオ社を約8,000億円で買収するために社債・借入金による資金調達をおこなったことが主要因(参考リンク)。
社員の待遇
✔平均年収と平均年齢
アステラス製薬の平均年収は1,000万円を上回る推移が長年に渡って定着している。大卒総合職の給与水準は、30歳で年収800万~950万円、課長職レベルで1,200~1,500万円ほど。平均年齢は2018年の43.5歳をピークに若返り傾向へ転換。
✔従業員数と勤続年数
アステラス製薬の単体従業員数は4,600人~5,200人ほどの組織規模で横ばい。2021年には3,943人まで減少したが、同年以降は回復。平均勤続年数は長期的に16年~17年ほどで安定しており、従業員の定着は良い。
総合評価
企業格付け:AA
日系製薬メーカーでは武田薬品工業・大塚製薬に続く業界3位の地位を確立、2014年には武田薬品工業を時価総額で追い抜いて日系製薬メーカー首位に立ったことも。業績は売上高・利益いずれも安定的であったが、2019年以降は新薬の開発計画の乱れによって利益は振るわない。2023年には純利益170億円まで低下しており、たった5年間で10分の1にまで激減。最大の課題は売上高の約40%を稼ぎだす前立腺がん治療薬「イクスタンジ」の特許切れが2027年に迫る点。本来であれば次の売上高の柱となる新薬の開発を進めたい所だが、開発計画の中止・変更が相次いでおり暗雲が立ち込める。2番目の稼ぎ頭である「プログラフ(売上高2,031億円)」は「イクスタンジ(売上高7,505億円)」と比べれば販売規模は小さく、やはり「イクスタンジ」一本足打法の感は強い。2023年には米・アイベリックメディオ社を約8,000億円を投じて買収、加齢黄斑変性薬に強い同社のノウハウを生かしてアメリカの同市場を攻める構え。過去10年は業績好調が続いてきたが、次の屋台骨となる新薬の開発に成功するかが次の10年の明暗を分けるだろう。
就職格付け:AA
売上高の約80%以上を海外で稼ぐグローバル製薬メーカーであり、泌尿器疾患と移植領域においては世界的存在。給与水準は平均年収1,000万円を優に超える水準が長年に渡って定着、30代で年収1,000万円にしっかり到達する。日系製薬メーカーの例に漏れず年収に占める賞与比率が高い為に、業績悪化時には給与を削る余地が残されている点には注意。福利厚生は極めて充実しており、若い社員は借上げ社宅制度により家賃負担はほぼなし。結婚後にも借上げ社宅・家賃補助が続くため、額面年収の100万円以上は生活にゆとりがもてる。主力拠点は茨城県・静岡県・富山県に集中しているため、生活コストの安い地方に根を下ろして過ごすことができる。高給企業かつ(生活コストが安い)地方勤務のため、地方生活にさえ慣れてしまえば人生の満足度は相当に高いだろう。地方とは言いつつも富山を除けば、東京へのアクセスがそこまで悪くないのも長所。