企業概要
稲畑産業は、合成樹脂・化学品・電子材料・日用品などを主力とする化学系専門商社。1890年に稲畑勝太郎が染料商社として創業、戦前から世界各地へ支店を設置して染料・香料などの貿易事業を営んだ。戦後には事業多角化を進め、化学品以外の事業を積極開拓。現在では売上高の約半分を合成樹脂が占めるほか、輸入冷凍ブルーベリーでは国内シェア首位。1944年に国策で住友化学と一時的に合併した歴史があることから、同社とは70年以上に渡る取引関係・資本関係があり親密。
・大阪本社の化学系専門商社、住友化学と長年に渡り蜜月関係
・売上高・利益いずれも好調で成長基調、財務体質も大いに健全
・平均年収984万円だが総合職なら更に良好、福利厚生も恵まれている
就職偏差値と難易度
✔就職偏差値:70(最上位)
日本社会におけるサラリーマンの最上位クラスの待遇を得られる。勝ち組サラリーマンとして胸を張れる人生が得られるが、入社するには相当以上の能力もしくは運が必要。
詳細な企業分析は以下の業績動向・社員の待遇を参照。本レポート末尾に総合評価を記す。
✔就職難易度:難関上位級
総合職の採用人数は年間20名~35名と非常に少ない。そのうえ、総合商社との併願者も多いため難易度は高い。在阪商社だけあって関西圏の出身者が多め。
採用大学:【国公立】東京大学・大阪大学・九州大学・北海道大学・金沢大学・千葉大学・東京外国語大学・神戸市外国語大学など、【私立】慶應義塾大学・早稲田大学・同志社大学・明治大学・日本大学・成蹊大学など(出典:マイナビ2026)
業績動向
✔売上高と営業利益
稲畑産業の売上高は2020年まで5,700億〜6,300億円レベルで安定していたが、同年以降は増加傾向に転換。2024年には過去最高となる売上高8,378億円に到達*1。営業利益も緩やかな増加傾向にあり、2024年には過去最高となる258億円に到達している。
*1:2021年から売上高が増加している要因は、①主力製品の合成樹脂の販売価格上昇、②化学品の需要回復による販売増加、③為替レートの円安推移による為替効果、など。
✔セグメント別の状況
稲畑産業は、情報電子事業(半導体・液晶材料、エレクトロニクス材料、プリンタ染料など)、化学品事業(自動車部品原料・樹脂原料・ゴム原料・接着剤原料・製紙用薬剤など)、生活産業他事業(医薬品原体・触媒・殺虫剤・農産品・水産物など)、合成樹脂事業(塩ビ樹脂・合成ゴム・フィルム・樹脂コンパウンドなど)、その他事業、の5事業を有する。
売上高・利益の約半分は合成樹脂事業が占めており、同事業の存在感が際立つ。祖業の流れを汲む情報電子事業は売上高・利益いずれも約30%程に留まっており、合成樹脂事業には及ばない存在感である。直近の中期経営計画では、合成樹脂・情報電子事業”以外”の売上高を30%以上まで高めるとしている。
✔最終利益と利益率
稲畑産業の純利益は緩やかな増加傾向にあり、2021年には過去最高となる純利益223億円に到達している*2。景気動向の影響を受けやすい樹脂・化学製品を多く取り扱いながら、景気後退局面においても黒字確保できる安定性は強味。営業利益率は長期的に2%〜3%での推移が続いており、規模で稼ぐ構造。
*2:2021年に純利益が増加した理由は、保有していた投資用有価証券11銘柄の売却による特別利益52億円が加わった点にある(参考リンク)。
✔自己資本比率と純資産
稲畑産業の自己資本比率は2020年まで緩やかな増加傾向にあったが、同年以降は横ばい傾向に転換。2024年は自己資本比率47.2%となっており、商社としては自己資本比率が高めの部類である。純資産も長期的な増加傾向が続いており、2024年には2,165億円に到達している。
社員の待遇
✔平均年収と平均年齢
稲畑産業の平均年収は2021年まで860万円前後で推移していたが、2024年には984万円に到達している。専門商社としては上位級の給与水準が設定されている。総合職であれば30代中盤で1,000万円は突破し、課長職レベルで年収1,200万〜1,300万円レベル。平均年齢は41歳前後であり、大企業なりの年齢構成。
✔従業員数と勤続年数
稲畑産業の単体従業員数は緩やかな増加傾向にあり、2024年は667人ほどの組織体制となっている。事業規模の割には組織規模は小さめであり、少数精鋭の体制。子会社や関連会社の従業員も含めた連結従業員数は4,300人ほど。平均勤続年数は13.4年(2024年)と長くもなければ短くもない水準。
総合評価
企業格付け:BBB
戦前から染料貿易でグローバル展開をしていた老舗専門商社。戦時中の国策によって住友化学と合併させられた歴史を持つが、それゆえに戦後直後から化学専門商社へと転換。住友化学との親密な関係をベースに大きく飛躍した。業績においては、世界的な原材料高による樹脂・化学製品の価格上昇を追い風に売上高・利益いずれも過去最高圏を推移。2000年頃には売上高3,000億円前後に過ぎなかったことを思えば、過去20年間で事業規模を2倍以上に拡大させた計算である。業績安定性においても秀でており、ITバブル崩壊時・リーマンショック時・COVID-19感染拡大期いずれにおいても黒字をきっちり確保している。財務健全性における保守的な傾向が強い企業でもあり、自己資本比率47.1%(2024年)と専門商社としては上位級の財務体質を有している。先述した業績安定性を鑑みれば、極めて安定的な事業運営ができていると評価できよう。が、70年以上に渡るパートナーである住友化学が2022年頃から業績不振に苦しんでおり、2024年には当社株式を一部売却(参考リンク)。住友化学の持分法適用会社から外れることとなった。
就職格付け:AA
長瀬産業・岩谷産業・阪和興業などと共に大阪に本社を置く専門商社の一角。商社機能だけではなくメーカー機能も保有している点が特徴的であり、とりわけ主力製品の樹脂コンパウンドにおいては顧客ニーズに応じた開発・加工に柔軟に対応できる体制に強みがある。給与水準においては平均年収860万円前後で推移していたが、2024年には平均年収984万円まで上振れ。当社は総合職だけではなく一般職採用も実施しているため、総合職に限れば平均年収1,000万円は上回る。実際には、総合職・30代中盤で1,000万円は突破し、課長職レベルで年収1,200万〜1,300万円が目安となるだろう。福利厚生においても恵まれており、若手社員であれば月5,000円の負担で借上げ社宅に入居できるため住宅コストも節約できる。働き方改革においても先進的であり、①テレワーク勤務制度では稼働日の40%までを目安に在宅勤務が可能、②2023年から男性の育児休業取得を義務化。海外ネットワークが充実していることから海外駐在の可能性が高いため、海外勤務に意欲的な求職者であえば大いに検討の余地がある(海外駐在となれば駐在手当によって給与水準は更に跳ね上がる)。在阪専門商社の中では知名度がいまいち低い企業ではあるが、給与水準・福利厚生においては大いに優良企業と評価できる。