企業概要
小田急電鉄は、神奈川県・東京都において鉄道事業・バス事業・百貨店行・不動産業などを展開する大手鉄道会社。1923年に鬼怒川水力電気が創業、1927年には小田原線(新宿〜小田原間)を開業。戦時下には東急電鉄・京王電鉄・京浜急行鉄道などと国策合併を強いられたが、終戦後には分離独立。1960年代には百貨店・旅行・不動産など事業多角化を推進。現在では神奈川県を代表する鉄道会社の地位を確立しており、年間輸送人員数は7.5億人にも達する。沿線観光地である箱根・鎌倉・大山エリアの観光開発にも注力。
・神奈川県・東京都が地盤の大手私鉄、百貨店・バス・不動産など事業多角化
・売上高は2020年に急減して利益も停滞、自己資本比率も低め
・平均年収717万円だが総合職は昇給が早い、平均勤続年数21年と圧巻
就職偏差値と難易度
✔就職偏差値:69(上位)
かなりの勝ち組サラリーマン。日系大企業としては上位級の待遇をしっかりと得られる。給与・待遇は大手企業の中でも上位クラス、満足度の高い人生を安定して歩むことができる可能性が高い。
詳細な企業分析は以下の業績動向・社員の待遇を参照。本レポート末尾に総合評価を記す。
✔就職難易度:総合職=至難、現業職=難関
総合職の採用数は年間10人前後、現業職の採用数は50人~70人ほど。首都圏の大手私鉄ゆえに人気度は高いが、総合職の採用数は極めて少ない。総合職としての入社難易度は非常に高い。
採用大学:【国公立】東京大学・北海道大学・横浜国立大学・筑波大学・千葉大学・東京都立大学など、【私立】慶応義塾大学・早稲田大学・東京理科大学・成城大学・日本大学など(出典:マイナビ2026)
業績動向
✔売上高と営業利益
小田急電鉄の売上高は2019年までは5,300億円前後で推移してきたが、2020年に売上高3,860億円まで激減。同年以降は回復途上にあるが、2022年でも3,952億円に留まる*1。営業利益も2019年まで500億円前後で安定していたが、こちらも2020年に激減。
*1:小田急電鉄はCOVID-19感染拡大により大打撃を被った1社。外出自粛により鉄道需要が激減したうえ、グループ会社のタクシー・バス・ホテルなども大打撃を受けた。
✔セグメント別の状況
小田急電鉄は、運輸業(鉄道・バス・タクシー・ロープウェイ・江ノ島電鉄など)、流通業(百貨店・ストアなど)、不動産業(小田急不動産・小田急ハウジングによる不動産分譲・賃貸など)、その他事業(ホテル・レストラン・旅行・ゴルフ・鉄道メンテナンス・広告代理店など)、の4事業を有する。
小田急電鉄は鉄道会社として知られるが、運輸業事業が売上高に占める割合は約38%に過ぎず、イメージの割に鉄道事業が売上高に占める割合は高くない。最近はCOVID-19影響で本業が冴えない為、不動産事業が利益の屋台骨となっている。
✔最終利益と利益率
小田急電鉄の純利益は2020年に▲398億円の大赤字に陥ったが、2022年には407億円まで急増して過去最高を更新*2。営業利益率は2018年まで9%台で推移してきたが、同年以降は振るわない。
*2:2022年に利益急増した理由は、保有不動産・子会社の売却による特別利益が理由(参考リンク)。新宿エリアに保有していた小田急第一生命ビル・小田急センチュリービルを売却した他、ホテル小田急の株式をすべて米・KKR社に譲渡。
✔自己資本比率と純資産
小田急電鉄の自己資本比率は長期的に26%~30%で推移。自己資本比率はやや低めの印象だが、これは鉄道会社に特有の事情による*3。純資産は2019年まで安定増加していたが、2020年以降は業績悪化で停滞。
*3:鉄道会社は鉄道車輛や線路の維持管理に膨大な設備投資資金を要する特性があり、自己資本比率は他業界と比べて低めとなる特徴がある。ただし、安定したキャッシュフローが得られる業態であるため自己資本比率がやや低めであったとしても大きな問題とはならない。
社員の待遇
✔平均年収と平均年齢
小田急電鉄の平均年収は2019年まで740万~760万円ほどの水準で推移していたが、同年以降は720万円前後まで後退。総合職の場合、35歳の課長代理職で年収800万〜900万円、課長職レベルで年収1,050万~1,200万円が目安。運転士採用でも30代で600万円は超える。
✔従業員数と勤続年数
小田急電鉄の単体従業員数は2019年まで増加傾向が続いていたが、同年以降は横ばい。子会社や関連会社の従業員も含めた連結従業員数は1.26万人規模。平均勤続年数は直近で21.1年と極めて長く、大手企業のなかでも従業員の定着のよさは傑出。
総合評価
企業格付け:BB
■業績動向
COVID-19の大打撃から回復途上。売上高5,341億円(2019年)から3,588億円(2021年)への極端な売上高の急落に直面。2023年には売上高4,100億円まで回復する見通しだが、それでも2019年以前とは大差。COVID-19影響は一服したが、リモートワークが一気に普及したことで相当の通勤需要を失った点は将来的にも尾を引く。2022年には純利益407億円まで急増しているが、これは不動産・子会社の売却益が大半を占めているため一過性である。
■財務体質
可もなく不可もなし。有利子負債は6,474億円と巨額であるのに対して手元の現預金は676億円に過ぎない。鉄道事業は安定したキャッシュフローが得られる業態であるため問題はないが、自己資本比率は30%前後と高くはない。が、東京都・神奈川県に数多くの優良不動産を保有している点は大きな安心材料であり、2023年には一部物件の売却で1,300億円もの収入を得ている。
■ビジネス動向
2030年を最終年度とする中期経営計画を策定。ホテル事業・レストラン事業を見直しつつ、外国人観光客の再流入を見据えた施策を打つ方針。沿線都市開発にあたっては、これまでの"沿線開発"戦略から"地域経済圏"戦略へと方針転換。2029年に完成予定の新宿駅西口地区開発計画の深化に加えて、町田・海老名・本厚木・藤沢などへのテコ入れも。
就職格付け:BB
■給与水準
業界上位級。若手社員のうちは給与水準は低めだが、30歳過ぎに課長代理へと昇進すると年収800万円台へと跳ね上がる。課長へ昇進すれば年収1,000万円は優に超えるため、神奈川県なら良い生活ができるだろう。年功序列色が強いため、同職種の同期入社組と概ね横並びで昇進していく。COVID-19以降には給与水準が急落したが、特殊要因がなければ給与水準も安定している。
■福利厚生
大手私鉄の標準的水準だが、家賃補助制度がないうえ社宅は遠方出身の若手社員のみ。ワークライフバランスの確保には力を入れており、出産・育児と仕事を両立できる制度が充実。事業範囲が小田急沿線に限られるため、転居を伴う遠距離転勤リスクがない点は大きなメリットである。
■キャリア
事務系総合職・技術系総合職・エキスパート職の3職種制。総合職は将来の小田急グループ幹部候補として育成されるため、30歳過ぎで課長代理・30代後半には課長へと昇進するスピード感で出世していく。総合職は新卒で例年10人程しか採用されない狭き門であるうえ離職率も極めて低いため、中途入社で潜り込むことは極めて困難。