企業概要
名村造船所は、中~大型サイズのばら積み船・タンカー・ガスキャリアの建造・修繕を主力とする大手造船会社。1911年に名村源之助が創業、戦前から大阪市住之江区に造船所を置いて黎明期の日本造船業を支えた。1979年には大阪造船所を閉鎖して、佐賀県に伊万里造船所へ本拠地を移転。2000年代以降には函館どつく・佐世保重工業を完全子会社化、現在では竣工量ベースで日系造船メーカー3位を誇る。同型船連続建造による効率的造船を得意とする他、水素燃料電池船・LNG燃料船など次世代船舶の開発にも熱心。
・日系造船メーカー3位の大手造船会社、大阪本社だが主力造船所は佐賀県
・売上高・利益いずれも不安定だが、巧みな事業運営・財務規律で生き延びる
・平均年収510万円だが総合職は更に高い、福利厚生は極めて充実
就職偏差値と難易度
✔就職偏差値:58(中堅)
上場企業・著名企業に勤務するサラリーマンとしては中堅クラスの待遇を得られる。安定性や待遇に目立った課題はほぼなく、良好な人生を送ることができる可能性が高いだろう。
詳細な企業分析は以下の業績動向・社員の待遇を参照。本レポート末尾に総合評価を記す。
✔就職難易度:中難易度
総合職の採用人数は年間5人~15人とかなり少ない。伊万里エリアにおいては地元の名士企業として認知され、地元出身者には底堅い人気を誇る。
採用大学:【国公立】広島大学・佐賀大学・長崎大学・宮崎大学・九州工業大学など、【私立】中央大学・関西大学・成蹊大学・九州産業大学・長崎総合科学大学など(出典:マイナビ2026)
業績動向
✔売上高と営業利益
名村造船所の売上高は2015年の1,472億円をピークに減少傾向が続いたが、2022年には売上高1,241億円まで急回復*1。営業利益は長年に渡って赤字が続いたが、2022年には営業利益96億円まで急増*2。
*1:造船業界は10年サイクルで需要急増期と需要減少期を繰り返す特殊な業界。2015年以降は造船不況が続いていたが、2020年以降は需要急増期に突入。名村造船所に限らず、造船各社いずれも業績回復を示している。
*2:造船業界は需要急増期に高利益を叩き出す反面、需要減少期には低採算船舶の建造が続く特徴がある。名村造船所も営業赤字が続いたが、これは特殊な業界事情に原因がある。
✔セグメント別の状況
名村造船所は新造船事業(中~大型サイズのばら積み船・タンカー・鉱石運搬船の建造など)、修繕船事業(民間船舶の点検・修繕、自衛隊・海上保安庁の船舶の点検・修繕など)、鉄構・機械事業(橋梁・桟橋などの建造)、その他事業(情報システム・情報機器販売・設備保全・船舶貸渡など)の4事業を有する。
名村造船所の主力事業は新造船事業であり、売上高の約76%を新造船事業で稼ぐ。造船業界は10年サイクルで需要急増期と需要減少期を繰り返す特殊な業界であるが、造船専業に近い名村造船所は需要変動が業績を直撃しやすい。幾多の造船不況を巧みな事業運営によって乗り越えてきた歴史がある。
✔最終利益と利益率
名村造船所の純利益は2015年・2018年を除けば連続赤字だが、2022年に純利益112億円に急回復*3。営業利益率はマイナス圏での推移が続いているが、2022年には7%台まで急回復。
*3:通常の企業であれば連続赤字は危機的状況だが、造船業は10年に1度の需要急増期に大きく稼ぐ特殊な業界。名村造船所はリーマンショック前後に到来した需要急増期に累積650億円以上の純利益を稼ぎ、その後の造船不況での連続赤字に耐えられる財務基盤を構築している。
✔自己資本比率と純資産
名村造船所の自己資本比率は2015年の50%台から連続赤字により減少が続いたが、直近では39.8%まで急回復。純資産も2015年から減少が続いたが、直近では純資産500億円に回復。
社員の待遇
✔平均年収と平均年齢
名村造船所の平均年収は500万円台での推移が続いている。需要急増期には570万円まで増加するが、需要減少期には510万円まで後退。造船会社ゆえに現業職が多い点は割り引いて見る必要があり、大卒総合職の平均年収は600~650万円と推定。平均年齢は40歳前後で安定的に推移。
✔従業員数と勤続年数
名村造船所の従業員数は1,000人規模で安定的に推移、連続赤字が続いても雇用を守っている。子会社や関連会社の従業員も含めた連結従業員数は2,294人ほど。平均勤続年数は17年前後で安定推移しており、連続赤字でも社員が離れていないことが伺える。
総合評価
企業格付け:CC
日系造船メーカーにおいて竣工量3位を誇る大手造船会社。最近は中国・韓国の造船メーカーの躍進により競争環境は激化、三菱重工業・日立造船・三井E&S・サノヤス造船など業界大手が次々と造船から撤退する環境において、名村造船所は同型船連続建造による生産効率化で競争力を維持している。業績は10年サイクルの需要急増期・需要減少期を繰り返す業界構造が災いして売上高・利益いずれも不安定。需要急増期には純利益100億円以上を優に稼ぐが、需要減少期には赤字が連続する特殊性を持つ。名村造船所は100年以上に渡って造船不況を生き延びてきた経験から、需要急増期に財務体質を一気に健全化して、需要減少期の連続赤字にしっかりと耐える財務規律を遵守。2016年以降の造船不況においてもしっかりと耐え抜き、2022年には純利益100億円台へと再び返り咲いた。
就職格付け:C
大阪発祥の造船会社ゆえに現在でも大阪府に本社を置き続けているが、主力工場は佐賀県伊万里市に立地。伊万里市の造船業を代表する企業である為、佐賀県内の方が名声は高い。2022年2月25日にロシア軍の攻撃で被弾した日本船舶"ナムラクイーン"の建造主でもある。現社長は創業者の子孫にあたるが、慶應義塾大学経済学部を卒業後に米ボストン大学でMBAを取得したエリート経営者であり敏腕で知られる。給与水準は平均年収520~570万円ほどだが、大卒総合職の平均年収は600~650万円ほどと推定される。福利厚生は充実しており、独身寮は5,700円/月で入寮可能かつ社宅は2LDKでも1.7万円/月と極めて安価。通勤手当としてガソリン券の配布も行われる。総合職の場合は大阪・東京での勤務が発生しうるが、その場合には都市手当3~4万円/月で年収ベースを引き上げる配慮も。有給休暇も柔軟に取得できる。有力企業に乏しい佐賀県において数少ない優良企業であり、佐賀県内での就労を考えるなら有力候補たりうる。