企業概要
松井証券は、インターネット証券取引に特化した独立系証券会社。1918年に松井房吉が株取引仲介業務店として創業。1920年には第一次世界大戦後の株価大暴落で売り方に回ったことで巨額利益を叩き出し、松井房吉は戦前日本における伝説の相場師として名を知らしめた。終戦後も中堅証券会社として存続していたが、1998年に日本初の本格的インターネット証券取引を開始したことでオンライン証券大手へと成長。以来、インターネット証券に特化した証券会社として独自路線を歩む。
・オンライン取引に特化した独立系証券会社、ネット証券大手5社の一角
・売上高・利益は横ばいだが高利益率、個人投資家の動向に左右されやすい
・平均年収916万円で証券会社に特有のノルマ営業なし、福利厚生は少なめ
就職偏差値と難易度
✔就職偏差値:66(上位)
かなりの勝ち組サラリーマン。日系大企業としては上位級の待遇をしっかりと得られる。入社するには相応の能力が必要であるが、立ち回りを工夫すればチャンスはそれなりにある。
詳細な企業分析は以下の業績動向・社員の待遇を参照。本レポート末尾に総合評価を記す。
✔就職難易度:難関
総合職の採用実績は年間8名~13名のみ。単体従業員数200名ほどの小規模企業であるために採用数自体が極めて限られており、入社難易度は相当に高い。
採用大学:【国公立】一橋大学・大阪大学・北海道大学・筑波大学・埼玉大学・東京外国語大学など、【私立】慶応義塾大学・早稲田大学・上智大学・東京理科大学・立教大学(出典:マイナビ2026)
業績動向
✔営業収益と営業利益
松井証券の営業収益は、2022年まで240億~310億円レベルで推移していたが、2023年には368億円まで急増*1。営業利益は長期的に90億~185億円レベルで横ばいが続いている。
*1:2023年に営業収益が増加した理由は、①株価上昇を追い風とした個人投資家の株取引増加による手数料収入の増加、②信用取引残高の増加による金融収支の増加、など。
✔セグメント別の状況
松井証券は、オンライン証券サービス事業(オンライン証券取引アプリ、投資信託、先物オプション、NISA・iDeCoなど)のみの単一事業会社である。
当社はオンライン証券サービスに特化した業態を特徴としており、主要顧客は個人投資家である。当社の主たる収益源は手数料収入であるため、株価上昇時など個人投資家の株式投資熱が高まっている相場環境であると好業績になりやすい。反面、相場低迷が続くなど個人投資家の株式投資熱が冷める相場環境だと、手数料収入は低迷しやすい。
✔最終利益と利益率
松井証券の純利益は2019年のみ61億円に低下*2したが、同年を除けば78億~129億円で安定的。営業利益率は35%~57%とかなりの高水準にあり、オンライン証券ならではの低コスト体質を活かして高利益率を確保している。
*2:2019年に純利益が減少した理由は、①主要顧客の個人投資家がCOVID-19感染拡大による株価暴落によって株式投資熱を失った点、②信用取引残高の減少による金融収支の減少、など。
✔自己資本比率と純資産
松井証券の自己資本比率は、過去8年間に渡って6%~13%前後と低いが、これは証券会社の特殊性が理由であり問題はない*3。純資産は2019年に約160億円以上も減少*4しており、直近では763億円となっている。
*3:顧客から預金・有価証券を預かる事業の性質上、貸借対照表での負債が広がるためである。
*4:2019年に純資産が急減した理由は、①創業100周年記念配当と称して総額100億円を株主へ配当金として支払った点(参考リンク)、②創業100周年を記念して全正社員に1人あたり100万円の臨時賞与を支払った点(参考リンク)、など。
社員の待遇
✔平均年収と平均年齢
松井証券の平均年収は2020年までは740万~870万円ほどであったが、2021年からは910万円前後まで高まっている。総合職の場合、30歳で年収700万〜750万円、課長職レベルで年収1,000万~1,200万円が目安。中堅の独立系証券会社としてはトップレベルの給与水準であり、大手証券会社に見劣りしない。
✔従業員数と勤続年数
松井証券の単体従業員数は長年に渡って増加傾向が続いているが、直近の2023年でも203人と極めて少数精鋭の組織体制となっている。平均勤続年数は直近で10.7年と証券会社としては長め。平均勤続年数は低下傾向にあるが、これは採用強化で新規入社者が増えていることが理由であるため問題はない。
総合評価
企業格付け:CCC
インターネット証券分野における大手5社(SBI証券・楽天証券・マネックス証券・auカブコム証券・松井証券)の一角であり、いかなる企業グループにも属さない独立系証券会社。インターネット証券分野における最大手であるSBI証券(1,300万口座)と比べると、当社は150万口座とかなりマイナーな存在であるが、日本国内で初めて本格的インターネット証券取引サービスを開始した老舗であり一定の人気は今なおある。当社は個人投資家からの取引手数料が主たる収益源であるため、業績は良くも悪くも個人投資家の動向に左右されやすい。ただし、インターネット証券ならではの低コスト体質によって営業利益率は35%~57%と大いに良好。過去8年間においては株式相場が低迷する時期であっても営業利益・純利益をしっかりと確保できており赤字転落はない。が、2023年からは業界大手のSBI証券・楽天証券が株式取引手数料の無料化を開始。同2社は巨大企業グループに属するために株式取引手数料で稼ぐ必要性が薄いために手数料無料化を断行した反面、当社は株式取引手数料が主たる収益源であるため不利な状況。インターネット証券はサービスによる差別化が少ない業態であるため、今後どのように当社が対抗していくかが着目される。
就職格付け:B
戦前日本において伝説の相場師として活躍した松井房吉が創業した企業。大正から令和まで創業家・松井家の末裔が経営を指揮してきた同族企業であったが、2020年に非創業家出身の経営者を迎え入れたことで創業家は経営の一線からは退いた(ただし大株主には松井家の末裔が名を連ねており、株主としての創業家の影響力は今なお大きい)。インターネット証券に特化した独立系証券会社ながらも給与水準はかなり恵まれており、2021年からは平均年収910万円前後。総合職であれば、30歳で年収700万〜750万円、課長職レベルで年収1,000万~1,200万円には達する。大手証券会社から大きくは見劣りしない給与水準であるうえ、(大手証券会社のネックである)過酷な対面営業や全国転勤もないのは魅力的。ただし福利厚生は2000年代の人事制度改革によってかなり削られており、住宅手当・家族手当は廃止され、退職金は前払いとなっている(参考リンク)。いずれも基本給に込みであるために平均年収が高水準に推移できている点は、事前によく認識しておきたい。