企業概要
太平洋セメントは、三井グループ・芙蓉グループの大手セメントメーカー。1998年に大手セメントメーカーの秩父小野田と日本セメントが合併して誕生。前身の1社である日本セメントは日本初の国産セメント工場として成功した、官営深川セメント製造所の流れを汲んでおり、国産セメント産業を興した名門である。現在ではセメント販売量で国内シェア約35%を掌握する業界最大手である他、建設ブームが続いている北米・アジア圏への海外展開を加速。
・三井G・芙蓉Gに属する大手セメントメーカー、国内シェア業界トップ
・業績は2000年代をピークに停滞するが利益率は良好、財務体質も健全
・平均年収722万円だが住宅補助が手厚い、転勤範囲は広く転勤頻度も多め
就職偏差値と難易度
✔就職偏差値:62(中堅上位)
大手企業の中でも中堅上位クラスの1社であり、世間的にも有名企業として認知される。入社できればサラリーマンとして、かなり安定した人生が得られるだろう。
詳細な企業分析は以下の業績動向・社員の待遇を参照。本レポート末尾に総合評価を記す。
✔就職難易度:やや難関
総合職の採用実績は年間50名~60名、うち事務系採用枠は約20名であるため技術系採用枠がやや多い。人気業界ではないものの、業界トップ企業かつ採用数が少ないため入社難易度は決して低くはない。
採用大学:【国公立】東北大学・筑波大学・広島大学・埼玉大学・岐阜大学・山形大学・長岡技術科学大学など、【私立】同志社大学・立命館大学・日本大学・近畿大学・東京理科大学など(出典:マイナビ2026)
業績動向
✔売上高と営業利益
太平洋セメントの売上高は2000年に1兆円を記録したが、同年をピークに停滞*1。直近の2023年は売上高8,862億円となっている。営業利益は2022年に44億円まで激減*2したが、同年を除けば460億~660億円ほどで横ばい。
*1:セメント業界は1990年代~2000年代の公共工事・建設ブームを最後に斜陽化している業界。建設業の人手不足や再開発の一巡によってセメントの国内需要は停滞している状況。
*2:2022年に営業利益が激減した理由は、①世界的な原材料価格の高騰によるセメント事業のコスト上昇、②電力価格・石炭価格の上昇による生産コスト上昇、③コスト上昇に対応する価格改定の遅れ、など。
✔セグメント別の状況
太平洋セメントは、セメント事業(各種セメント・生コンクリート)、資源事業(骨材・石灰石など)、環境事業(廃棄物リサイクル・脱硫材)、建材・建築土木事業(コンクリート二次製品・軽量気泡コンクリート)、その他事業(不動産・金融・運輸・化学品・スポーツなど)、の5事業を有する。
当社は売上高・利益いずれもセメント事業が過半数を占めている他、同事業以外もセメント事業との関連性が強い。資源事業ではセメントと混ぜ合わせてコンクリートを作るための骨材類を生産している他、環境事業ではセメント工場の高温焼成技術を生かして廃棄物を処理している。
✔最終利益と利益率
太平洋セメントの純利益は2022年に▲322億円に急落*3したが、同年を除けば290億~470億円ほどで横ばい。営業利益率は2022年を除けば6%~7%レベルで安定しており、素材メーカーとしては高めの利益率である。
*3:2022年に最終赤字に転落した理由は、①セメント事業におけるコスト上昇による採算悪化、②中国事業における連結子会社の事業撤退による特別損失134億円の計上、など(参考リンク)。
✔自己資本比率と純資産
太平洋セメントの自己資本比率は、長期的な増加傾向が続いている。2022年には最終赤字を計上したことで39%まで低下したが、直近では42.1%に回復。大手メーカーとしてはかなり良好な水準である。純資産も長期的な増加傾向にあり、2023年には5,964億円に到達。
社員の待遇
✔平均年収と平均年齢
太平洋セメントの平均年収は720万~750万円ほどで長期的に安定している。総合職の場合、30歳で年収530万~590万円、課長職レベルで年収900万~1,000万円が目安。実力差による昇給・昇進の差がつきにくい人事・給与制度となっている。従業員の平均年齢は長期的な低下傾向がみられ、若返りが進んでいる。
✔従業員数と勤続年数
太平洋セメントの単体従業員数は2021年まで微増傾向にあったが、同年以降は停滞。直近の2023年は1,800人ほどの組織規模。子会社や関連会社の従業員も含めた連結従業員数は1.25万人ほど。平均勤続年数は減少傾向が見られるが、直近でも17.3年と大企業の標準的水準よりやや長め。
総合評価
企業格付け:CCC
セメント業界で国内シェアトップの企業、競合にはUBE三菱セメントや住友大阪セメントなどがある。1998年に合併した秩父小野田セメントが三井グループ、日本セメントが芙蓉グループに属していた為、三井グループ・芙蓉グループのいずれにも属している。2000年代の公共工事・建設ブームの時代には売上高1兆円を超えていたが、直近の売上高8,862億円という数字は斜陽感が否めない。他方で、利益面では2016年に過去最高となる純利益475億円を記録するなど、利益面はいまだ健闘。成長性こそ失われているが、営業利益率は6%~7%レベルで長期的に推移しており、これは素材メーカーとしては良好な水準。財務体質も改善が進んでおり、直近の2023年には自己資本比率42.1%とかなり良好な水準に達している。また、当社の将来において重要なのは、海外事業の動向。国内市場は建設ブームの終焉で成長性が見込めないため、北米・アジア圏など建設ブームが依然として続くエリアでのシェア拡大は極めて重要であろう。当社はアメリカ・フィリピン・ベトナム・シンガポールなどに進出しており、直近ではセメント事業の海外売上高比率は50%にも達している。こうした海外事業の成否について、今後も注目していきたい。
就職格付け:CCC
日本で初めて国産セメント工場として成功した官営深川セメント製造所の流れを汲む名門。合併前の一社である日本セメントは、戦前日本において国内シェア50%以上を掌握した浅野セメントを前身としている(同社総帥・浅野総一郎は『セメント王』として知られた)。給与水準は平均年収は720万~750万円ほどで長期的に安定しており、セメント業界の他社を上回る水準。総合職であれば30歳で年収530万~590万円、課長職レベルで年収900万~1,000万円には達する。福利厚生においては住宅補助が優れており、独身寮・社宅が完備されているうえ居住年数の上限が設定されていない点にある。その気になれば定年退職まで社宅に滞在できるため、家賃負担を極めて軽く生活でき、実質的な生活水準は見た目の平均年収を大きく上回るだろう。他方で、持ち家を取得したい場合や自分の好きな物件に住みたい場合には補助が得にくいため、自己負担が大きく増加するのは悩ましい。また、総合職は数年に1度の工場間転勤が避けられない一方で、当社の工場は「北は北海道・南は大分」まで分散している。そのため、転勤距離が長大となる点にも理解が必要。